公法学専攻修士課程には、宇宙法実務を志望する学生と2年以上の社会人経験を有する大学既卒者、および留学生を対象とした、宇宙法専修コースが設置されています。

 諸外国では、宇宙開発や宇宙に関連した事業を開発展開する指針となる「宇宙条約」(1967 年発効)のもと、独自の研究・教育機関を設置し、主体的に国際ルールの策定や国内法整備に向けた人材の育成が行われています。そうしたなか、わが国でも宇宙活動に携わる法務担当者を養成する宇宙法の研究教育拠点の整備が要請されていたところ、平成24(2012)年度に、これまで宇宙法関係の分野で先駆的な研究業績を積み上げてきた慶應義塾において、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との密接な連携の下に開設されたのが、本コースです。

 本コースのカリキュラムにおいては、①専修コア科目(必修)として,「国際宇宙法入門」「国際宇宙公法」「国際宇宙私法」,②専修コース科目(選択必修)として,「航空法」「安全保障と宇宙」「宇宙法合同演習」等の宇宙法関連科目,および、憲法や行政法,国際法といった実定法科目,③専修選択関連科目として,地域政治や国際政治,国際金融などの科目が、履修すべき科目として設けられています。

 課程を修了し、宇宙活動の法務担当者としての資質を備えるに至ったと認められた者には、修士(法学)が授与されます。

宇宙法へのいざない

法務研究科・法学研究科 教授 青木 節子

法務研究科・法学研究科
教授 青木 節子


 2012年、法学研究科に宇宙法専修コースが開設された当時、「宇宙にも法はあるんですか?」と訊かれることがしばしばありました。それが今や、特に宇宙好きではない人たちからの質問も、「月の鉱物資源の所有は早い者勝ちで認められるのか?」、「宇宙ゴミを軌道上に放置することは国際法違反にはならないのか?」など、宇宙活動の知識を前提とした具体的なものに変わっています。この10年、世界中で宇宙開発利用が著しく発展し、特に宇宙ビジネスに革命的変革があったことから、宇宙への知識や関心が日常生活の一部になった結果だろうと思います。

 これは同時に、宇宙法がいっそう必要とされる時代になった、ということだろうと思います。宇宙観光や宇宙ゴミ除去、衛星修理・燃料補給などの新ビジネスが確立しつつあります。数年後には私企業が宇宙基地建設を開始する予定もあり、21世紀半ばまでには、地球から月までの活動圏が構築されると予想されています。しかし、まだ宇宙には、陸海空のような交通規則は存在せず、各種宇宙機の運航態様や宇宙基地建設・運用のルール形成は今後の課題です。ますます重要になる防衛・安全保障目的の宇宙利用をめぐる合意づくりも喫緊の課題です。宇宙法専修コースは、宇宙が好きで、国際的なルール形成や国内法整備、リスク管理等を国際機関、政府、産業界等で担いたい、という夢をもつ人々のために開かれています。

修了生からのメッセージ

渡邉亜希子 氏

スペースワン株式会社
渡邉 亜希子


 私は民間企業で社会人経験を経たあと宇宙法専修コースに入学し、2016年3月に修了しました。現在は民間企業として日本からロケットの打上げサービスを行うスペースワン株式会社にて、主に法務業務を担当しています。

 宇宙ビジネスは世界的にも、国を中心に行われてきましたが、昨今は民間企業の台頭が著しくなっています。その一方で宇宙ビジネスに関する法的な研究、実務については関わる人数がまだまだ少ない分野です。国が負えるリスクと民間企業が負えるリスクには大きな違いがあるため、民間企業が宇宙ビジネスを行うためにはルールを理解し、リスクを分析し、必要な対応を検討することが不可欠です。

 慶応大学の宇宙法専修コースは宇宙ビジネスにかかる国際公法、契約実務などについて、研究者・実務家として経験豊富な教授のもと、同じ興味関心・志を持つ者が学生として集い、活発な議論・研究ができる数少ない場であると思います。私自身宇宙法専修コースで学んだことが現在の業務につながっており、そこでの経験を踏まえて日本の宇宙ビジネスの発展に貢献したいと日々精進しています。

 宇宙はこれまで以上に身近な存在になりつつあります。宇宙法に関する知識を身に着けて、一人でも多くの方が日本の宇宙ビジネスを一緒に盛り上げてくださることを願っています。

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